シンプルはさは究極の洗練だ
有名なレオナルド・ダビンチの言葉になりますが、もの作りのプロセスにおいては足し算よりも引き算の方が重要で、どれだけ削れるかが重要とされています。
とはいえ、ただシンプルにするば良いものではなく、無駄を省いていく作業の中で本当に必要なものだけが残り、本質が研ぎ澄まされた先に、本来あるべき形となって行くものだと考えます。
登山のテント泊には、LOCUS GEAR の「Hapi」(ハピ)というモデルのフロアレス・ワンポールシェルターを2年ほど使用しているので、その使用感などをご紹介したいと思います。
とにかく、張った姿が美しいの一言。
このメーカーのプロダクトには、その大きさごとに Khafra、Menkaura、Hapi、Khufu といったエジプトにあるピラミッドの名前がつけられており、フィールドに張ったその姿は、世界一美しい二等辺三角形と言われるピラミッドの美しさそのもの。
LOCUS GEAR について
2009年創業のローカスギアは、神奈川県相模原市に本拠を置く、ガレージブランドで、素材へのこだわりに定評があり、軽量で強靭な機能性素材を用いた、主にワンポールシェルターを開発しているメーカーです。
キャンプから転向して登山を始めるにあたり、軽量なテントを購入する必要がありました。キャンプではMSRのElixir3を使用していて、嵐の中でもびくともしない頼もしいテントではありましたが、総重量が3.19kgもあり、こいつを担ぎ上げて登山を行う自信はありませんでした。
そこから、テント探しの旅がはじまり、あれこれと色々なテントの候補が上がりましたが、LOCUS GEARのシェルターに一目惚れ!!
しかし、このシェルターで最後まで引っかかったのが、フロアレスで床がないこと。登山初心者がいきなりフロアレスシェルターで山に行って大丈夫だろうか?
ポール一本で支えるテントで嵐が来ても倒壊しないのか?
また、自立式のテントではないので、幕営する場所もペグが打てないと張れない問題と、2人用のシェルターにしては床面積が大きく、広いスペースを確保しなくてはならないので、ハイシーズンの混雑したテント場では、張ることが出来ない恐れもあるといった、考えたら切りのない不安が沢山ありました。
しかし、そんな懸念よりも デザインがすばらしい!!
そのことだけを優先して購入を決めました。
二人で使用する前提なので、Khafra(カフラ)では280cm×280cmと山岳テントとしては大きく、張れる場所も限られてしまうので、代表的なモデルであるKhufu(クフ)の短辺を160cmから180cmに広げ、短辺側にドア・パネルを設けたHapi(ハピ)を選択しました。LOCUS GEARのシェルターは、どのモデルも入り口が一箇所しか無いため、Hapiのように短辺側に入口があるおかげで、テントを出るときに人をまたがず気軽に出入りができます。メーカーもKhufuをただ大きくするだけではなく、このあたりはよく考えられた仕様になっています。
オーダーで好みの素材と色が選べる
Hapi(ハピ)の素材はシルナイロン、キューベンファイバー(DCF-eVentは廃盤)から選べ、シルナイロンの「ブロンズミスト」というカラーにしました。シェルターの縫い目はシーム処理がされていないので、購入後、縫い目からの浸水防止にシーリングしてやる必要があります。これには、失敗があり、初めてこのシェルターを持っていった立山の雷鳥沢では土砂降りの雨に当たり、一晩中、天井からポタポタと垂れる雨漏れに悩まされ、ほとんど眠れなかった体験がありますので、届いたらシーム処理(シリコン素材専用)をすることをおすすめします。
シルナイロン
30デニールのリップストップナイロンにシリコンコーティングを施した、耐水圧3000mmのオリジナルシルナイロンを使用しています。耐水圧ついてですが、この目安としては500mmで小雨、1,000mmで普通の雨、1,500mmで強い雨に耐えられるとされています。
シルナイロンのモデルは、多少の伸縮性もあるのでテンションも掛けやすく、ガイラインの調整でキレイに張れますが、生地が延びる分、結露した時には重みでタルんでしまいまうのでガイラインで再調整が必要です。
シルナイロンのぬるぬるとした手触り感は病みつきになりますが、ツルツル滑りやすい素材で「折り畳み難さ」ナンバーワンです。なので、現地ではスタッフザックにクシャクシャっと丸めて突っ込んでます。
また、素材が薄いので日中はそうでもないのですが、夜になると透けて見えるので、中で何してるか分かるかもって感じです。でも、山なら気になりませんかね。
フロアレスの懸念払拭
購入当初に「フロアレスでだいしょうぶか?」といった懸念点ですが、このときの天井から雨漏れはさておき、フロアーの下から吹き込んでくる雨は微量で、ほとんど問題にはなりませんでした。なによりも、土砂降りの嵐の中、びくともしないで耐えてくれたシェルターには、今後、登山テント泊でも安心感をあたえてくれるだろうとの確信が持てたことは良い経験となりました。
下の隙間から多少の吹込みはありますが、ポールの高さを調整してあげると問題ありません。
また、フロアシートには、Grabber(グラバー) のオールウエザーブランケットを使用しています。こちらはHapiの270cm×180cmに対してシートの大きさが213cm×152cmとはみ出ることなくピッタリ!!
NASAがアポロ宇宙計画用に開発した超断熱素材を利用し作られた全天候型ブランケットということで、ある程度の断熱性も付与され地面からの冷気も防ぐことができます。(昭和生まれは”NASA”と聞いただけで、無条件の信頼を置いてしまう)ただし、重量が300gと少々重いので、軽量かつコンパクトさを求める方には不向きかもしれません。
フロアレス最大のメリット
フロアレスの最大の利点として、軽量コンパクトであることが挙げられます。幕布単体で490gと、とても軽く、自立式の軽量テントの半分以下くらいではないでしょうか。そして、ポールはトレッキングポールを使用するので、別に用意する必要はありません。また、使用していて凄く良いと思っている点は、雨や泥で汚れた靴などを気にせずテント内に入っていけること。これが、とても良くて、普通の自立式テントだと、雨が降っている中で靴を脱がなくてはいけませんが、フロアレスなら、靴のままヅカヅカとテント内に潜り込んでから、濡れずにゆっくりと靴を脱ぐことができます。
Hapi Sill を張るにあたって
山行計画をする段階で、なるべくフラットなテント場で広い場所を選んでいます。前記したように2人用の自立式テントと比べると床面積がかなり広いので、ハイシーズンのテント場争奪戦が繰り広げられる人気の山では、連休や週末の前に出発してピーク前にテント場に着くように調整しています。
ワンポールシェルターで一番問題となるのが、ペグを打てるかどうかということで、幕の四方を完全に固定しなくてはポールを立ち上げる事が出来ません。
まずは、石の多い近場の河川敷などで練習することをお勧めします。
慣れてくれば、涸沢などペグが打てない場所でも、そこら辺の石を使って設営できるようになります。
私の場合、キャンプでの経験があったので、この辺は苦労はなかったのですが、傾斜があると綺麗に張るのが難しくなり最初の頃は苦労しました。
几帳面な0型なので、少しでもシェルターが歪んでいると落ち着かず、何度もやり直しをして時間がかかってました。
あと、ワンポールシェルターに限らず言える事ですが、テント設営には「空間把握能力」が必要かもしれません。
自立式テントなら、狭い場所でペグ一本刺さなくても設営に支障はありませんが、非自立式のワンポールシェルターの場合はそうはいきません。
設営する場所に張れるかどうか見極める想像力がないと、シェルターを設営し始めてダメだとなったら、片付けてから場所を移動して、また一からやり直しになってしまいます。テント場が混み合っていたら、その間に設営できる場所が無くなってしまう恐れもあります。
最後に数は少ないですが、今までHapi Sillを実際に張ったテント場リストを作ってみました。
今までHapi Sillで過ごしたテント場
- 雷鳥沢(ペグは容易に打て、場所を選ばず幕営できます)
- 徳沢園(余裕です)
- 蝶ヶ岳ヒュッテ(場所によって、岩がゴロゴロしていてペグが刺さりにくいところがあります)
- 涸沢カール(ペクは諦めてください。。。岩でガイラインを固定)
- 赤岳鉱泉(平地が思いの外少ないが、ペグは容易に打てます)
- 常念岳小屋(ペクは容易に打てますが、傾斜が少しある)
- 大天井ヒュッテ(岩と砂のミックスでペグは場所を選べは打てます)
- 燕山荘(ペグは楽勝。でも、小石が鋭利でグランドシート敷かないと、フロアに穴開きます)
- 尾瀬・見晴キャンプ場(土の地面なので、ペグは簡単に刺さります)
- 双六山荘(ペグは余裕で刺さります。思いの外、フラットな場所は少ない)
今回は、軽量コンパクトで機能美を具現化したワンポールシェルターであるHapi Sillを紹介しました。
追記: インナーを導入
インナーを使用すると、室内が狭くなる?懸念もありましたが、そんな心配も杞憂に終わり、2人で使用しても窮屈さを感じさせず快適そのものでした。この日は、夜半過ぎから雨が降り、いつもならシェルターの隙間から雨が吹き込んだりもしてましたが、フロアの立ち上げもしっかり確保されていて、室内が濡れる事なく安心して過ごせました。
ただ、フロアレスと違い、汚れた靴など気兼ねなく置けなくなってしまったのは、ちょっと不便に思うところもありますが、安心感とのトレードオフと捉えれば、良い買い物でした
樹林帯までの雪山なら、シェルター+ハーフメッシュインナーの組み合わせで行けるかな。
ガレージブランドは生産数が少なくオーダーしてから何ヶ月も待てない! そんな方には、大きさやカラーがマッチするならインナーメッシュがセットになっているこちらも選択肢として